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令和に因んで                          2020223


令和になって、初めての初春を迎えました。

令和の由来、「初春の令月にして気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を抜き、蘭は珮後の香を薫らす。」は万葉集の一節、
大伴旅人の詠んだ句では?としてクローズアップされています。

この時季の梅の花は、明るさ、温かさを待ちこがれる人々に春を告げる兆しとして喜んで受け止められてきたもの
と感じます。

特に、梅は咲き始めこそ良く、梅一輪一輪ほどの暖かさにもみられるように梅の一輪に愛おしさが込められています。


当時を省みて見るに西暦730年という時代背景を考えて見ましょう。

大化の改新が645年、奈良時代の始まりが710年です。

大伴旅人は、聖武天皇によって60代なってからに太宰帥として、728年に大宰府に派遣されています。
大伴氏は当時では有力な武人であり政治家であり詩人でもありました。大伴旅人は、
720年に大隅(鹿児島)の隼人
の反乱鎮圧のため大隅に派遣されていましたが、藤原不比等の死去に伴い京に戻されていました。

一方、遡ること大化の改新直後に大和朝廷は
662年に朝鮮の白村江に大軍を派遣して百済と連合して、唐、新羅の
連合軍と戦い大敗を喫しています。聖徳太子の時から遣隋使、遣唐使を派遣してきましたが、白村江の大敗以来、
唐の侵攻に備え国交を止めている時代が続いていました。旅人が大宰府に赴任したのは、唐との交流が再開
(702)
し始めたばかりのころです。

そうした環境の中で、歌会が催されました。当時の識字率といえば平安時代の都でも5%と推定されていますので、
まだひらがなの無い奈良時代では
23%程度ではなかったのでは無いでしょうか。

そうした中で、唐の都の催しをもとに大伴旅人の呼びかけで歌会が開かれています。当時の地方の長官や医師や
陰陽師が招かれてお酒をのみ歌会が催されました。句を詠んだなかで詩人と言われる人は、大伴旅人と山上憶良
くらいしかいません。今でいう土地の名士と呼ばれた人々の句が万葉集に収録されています。

海外との戦争で大敗を喫したあと、負けた大国から文化を吸収していく時代背景は今の令和に通じるものがあると
思います。




令和に因み、その人々の句32首を味わってみたいと思います。


1.正月立ち春の来たらばかくしこそ梅を招きつつ楽しく終えめ。

 (
読み)むつきたちはるのきたらば かくしこそ うめをおきつつ たのしくおえめ
 
(訳)正月になり春がきたなら、こうやって梅を迎えて歓を尽くそう


2.梅の花 今咲けるごと 散り過ぎず我が家の園ににありありこせぬかも。

 (読み)うめのはな いまさけるごと ちりすぎず わがやのそのに ありこせぬかも

(訳)梅の花よ 今咲いているように 散ってしまわずに 我が家の園にのこっておくれ


3.梅の花 咲きたる園の青柳は 蔓にすべくなりにけらずや。

 (読み)うめのはな さきたるそのの あおやぎは かずらにすべく なりにけらずや

(訳)梅の花の 咲いている園の青柳は カズラにできそうになったではないか


4.春されば まずさくやどの 梅の花 独り見つつや 春日暮らさむ。

 (読み)はるされば まずさくやどの うめのはな ひとりみつつや はるひくらさむ

(訳)春になると まず咲く 我が家の梅の花を 一人見ながら春の日を過ごそう


5.世の中は 恋繁しゑやかくしあれば 梅の花にもならましものを。

 (読み)よのなかは こいしげしえやかくしあれば うめのはなにもならましものを

(訳)世の中は恋が尽きないものだ こんななら梅の花にでもなればよかった。


6.梅の花 今盛りなり 思うどち かざしにしてな 今盛りなり。

 (読み)うめのはな いまさかりなり おもうどち かざしにしてな いまさかりなり

(訳)梅の花は 今満開だ 親しい仲間よ 髪にさそうよ 今満開だ。


7.青柳梅との 花を折りかざし 飲みての後は 散りぬともよし。

 (読み)あおやなぎ うめとのはなを おりかざし のみてのあとは ちりぬともよし

(訳)青柳と梅のを折って髪にかざし 飲んだその後は 花は散ってしまってもよい。


8.我が園に梅の花散る ひさかたの天より雪の 流れ来るかも。

 (読み)わがそのに うめのはなちる ひさかたの あまよりゆきのながれくるかも

(訳)我が園に 梅の花が散る 空から雪が流れてくるのだろうか。


9.梅の花 散らくは いづく しかすがに この城の山に雪は降りつつ。

 (読み)うめのはな ちらくはいづく しかすがに このしろのやまにゆきはふりつつ

(訳)梅の花が散るのはどこのことだ しかしながらこの城山になるほど雪は降り続けている


10.梅の花 散らまく惜しみ 我が園の竹の林に鴬鳴くも

 (読み)うめのはな ちらまくおしみ わがそのの たけのはやしにうぐいすなくも

(訳)梅の花が散るのを惜しんで 我が園の竹の林に鶯が鳴く。


11.梅の花 咲きたる園の青柳を 蔓にしつつ遊び暮らさな。

 (読み)うめのはな さきたるそのの あおやぎを かずらにしつつ あそびくらさな

(訳)梅の花の 咲いている園の青柳を カズラにしながら遊び暮らそう。


12.うち靡く 春の柳と我がやどの梅の花とを いかにか分かむ。

 (読み)うちなびく はるのやなぎとわがやどのうめのはなとを いかにかわかん

(訳)うち靡く春の柳と、我が家の梅の花とを どうして区別できようか。


13.春されば 木末隠りて 鴬ぞ鳴きて去ぬなる 梅が下枝に。

 (読み)はるされば こぬれかくりて うぐいすぞなきていぬなる うめがしずえに

(訳)春になると 梢に隠れて鶯が鳴いていくことだ 梅の下枝に。


14.人ごとに 折かざしつつ 遊べども いやめずらしき梅の花かも。

(読み)ひとごとに おりかざしつつ あそべども いやめずらしき うめのはなかも

(訳)めいめいに折って髪に差しながら、ますますに心惹かれる梅の花だ


15.梅の花 咲きて散なば 桜花継ぎて 咲くべくなりにてあらずや。

 (読み)うめのはな さきてちりなば さくらばなつぎてさくべく なりにてあらずや

(訳)梅の花が咲いて散ったら、桜の花が続いて咲きそうになっているではないか


16.万代に 年は来経とも 梅の花絶ゆることなく 咲きわたるべし。

 (読み)よろずよに としはきうとも うめのはなたゆることなく さきわたるべし

(訳)千万年 年は過ぎても 梅の花は絶えることなく咲き続けるだろう


17.春なれば うべも咲きたる梅の花 君を思うと夜寐も寝なくに。

 (読み)はるなれば うべもさきたるうめのはな きみをおもうとよいもねなくに

(訳)春なので 道里で咲いた梅の花よ あなたを思うと夜も眠れないことだ。


18.梅の花 折てかざせる諸人は 今日の間は楽しくあるべし。

 (読み)うめのはな おりてかざせるもろびとは きょうのあいだはたのしくあるべし

(訳)梅の花を折って髪に飾る諸人は 今日の間は楽しいに違いない


19.年のはに 春の来たらば かくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ。

 (読み)としのはに はるのきたらば かくしこそうめをかざしてたのしくのまめ

(訳)年毎に 春が来たらば こうやって梅を髪に差して楽しく飲もう


20.梅の花 今盛りなり 百鳥の声の恋しき 春来るらし。

 (読み)うめのはな いまさかりなり ももどりのこえのこいしき はるきたるらし

(訳)梅の花が今満開であるよ たくさんの鳥の声が恋しい春が来たらしい


21.春さらば 逢わむと思いし梅の花 今日の遊びに相見つるかも。

 (読み)はるさらば あわんとおもいしうめのはな きょうのあそびにあいみつるかも

(訳)梅春が来たら、会おうと思っていた梅の花に 今日の遊びでまた逢ったことだ


22.梅の花 手折りかざして遊べども 飽きたらぬ日は今日にしありけり。

 (読み)うめのはな たおりかざしてあそべども あきたらぬひはきょうにしありけり

(訳)梅の花を 折って髪に差して遊んでも なお飽かぬ日は今日だったのだ


23.春の野に 鳴くや鴬なつけむと 我が家の園に梅が花咲く。

 (読み)はるののに なくやうぐいすなつけんと わがやのそのにうめがはなさく

(訳)春の野に 鳴く鶯を手なづけようとして 我が家の園に梅の花がさく


24.梅の花 散り乱ひたる岡びには 鴬鳴くも春かたまけて。

 (読み)うめのはな ちりみだいだるおかびには うぐいすなくもはるかたまけて

(訳)梅の花が 散り乱れている岡のあたりに 鶯が鳴いている 春になって。


25.春の野に 霧たちわたり降る雪と 人の見るまで梅の花散る。

 (読み)はるののに きりたちあわたりふるゆきと ひとのみるまでうめのはなちる

(訳)春の野に 一面に霧が立って雪が降るのかと 人が見るほどに梅の花が散る


26.春柳 かづらに折りし梅の花 誰れか浮かべし酒杯の上に。

 (読み)はるやなぎ かづらにおりしうめのはな たれかうかべしさかずきのうえに

(訳)春の柳をかずらに折ったのと梅の花を 誰が浮かべたのか盃の上に


27.鴬の 音聞くなへに梅の花 我が家の園に咲きて散る見ゆ。

 (読み)うぐいすの おときくなえにうめのはな わぎえのそのにさきてちるみゆ

(訳)鶯の声を聞くその端から 梅の花が我が家の園に咲いて散るのが見える


28.我がやどの 梅の下枝に遊びつつ 鴬鳴くも散らまく惜しみ。

 (読み)わがやどの うめのしずえにあそびつつ うぐいすなくもちらまくおしみ

(訳)我が家の梅の下枝で遊びながら 鶯が鳴くことだ 散るのを惜しんで


29.梅の花 折かざしつつ諸人の遊ぶを見れば 都しぞ思う。

 (読み)うめのはな おりかざしつつもろひとの あそぶをみればみやこしぞおもう

(訳)梅の花を手折ってかざしながら 人々が遊ぶ様子を見ると都を思うことがある


30.妹が家に 雪かも降ると見るまでに ここだもまがう梅の花かも。

 (読み)いもがえに ゆきかもふるとみるまでに ここだもまがううめのはなかも

(訳)妻の家に雪が降るのかと見るほどに こうも散り乱れる梅の花であることよ


31.鴬の 待ちかてにせし 梅が花散らず ありこそ思う子がため。

(読み)うぐいすの まちがてにせし うめがはなちらずありこそおもうこがため

(訳)鶯が待ちかねていた梅の花よ 散らずにあってくれ 愛するあの子のため


32. 霞立つ 長き春日をかざせれど いやなつかしき梅の花かも。

(読み)かすみたつ ながきはるひをかざせれど いやなつかしきうめのはなかも

(訳)霞が立っている 長い春の日中 髪に差しているが益々離れがたい梅の花よ